【学位論文】離散的シークエンス画像にみる鑑賞空間の建築意匠的特質の定量化

この論文は、美術館などで観賞者が空間の中を移動しながら作品を見る体験を、VR(バーチャル・リアリティ)カメラを使ったデータ分析によって「数値」で捉える新しい方法を提案したものです。 これまで、建築空間の特徴を理解するためには、写真撮影による記録が行われていました。しかし、写真を撮影する人の好みや視点によって、空間のどこをどのように撮るかが変わってしまい、客観的な評価が難しいという問題がありました。 本研究では、VRカメラで空間全体をまんべんなく撮影し、その映像をもとに、観賞者が歩き回る経路に沿って「床や壁といった建築要素の見え方」や「光の明るさと暗さの変化」を数値的に分析します。これにより、観賞者の移動にともなう空間体験を、個人の主観に左右されない客観的なデータとしてとらえることができます。 この手法は、実際に建築家カルロ・スカルパが設計したカステルヴェッキオ美術館と、村野藤吾が設計した谷村美術館に適用されました。その結果、それぞれの美術館空間が持つ「建築的な意匠(デザイン)上の特徴」を数字やグラフといった形でわかりやすく示すことができました。また、すでに建築の専門家が行ってきた「言葉による評価(定性的評価)」とも比較したところ、この新しい手法が、専門家の評価をより明確な数値で裏づけることができることもわかりました。 まとめると、本研究は、VR技術を活用して空間の観賞体験を客観的に数値化する新しい分析手法を示したものです。これにより、建築デザインの評価や比較を、これまでより正確かつ分かりやすい形で行うための新たな道が開けることが期待されます。

〈オリジナルの論文はこちらから〉離散的シークエンス画像にみる鑑賞空間の建築意匠的特質の定量化:佐賀大学, 2023