この研究は、美術館の中で人がどのように空間を感じているかを、VR(仮想現実)とAI(人工知能)を使って「数値化」しようとする試みです。対象となったのは、建築家・村野藤吾が設計した八ヶ岳美術館です。 まず、360度全方向を撮影できるVRカメラを使って、美術館内部の全周パノラマ画像を撮影します。その後、AI技術を用いて、その映像に写った壁や展示品などの要素を自動的に分類・整理します。これにより、美術館空間を構成する要素を客観的なデータとして扱えるようになります。 さらに、実際にVRを通じてこの美術館空間を体験する人の「脳波」を測定しました。その結果、特定の場所や場面では人の脳が活発に反応することがわかりました。これは、展示物や空間の構成が変わることで目に入る情報が異なり、それに伴って脳が反応し、空間を「感じ取っている」ことを示しています。 つまり、一見すると一つの大きな空間でも、実際には連続的な変化があり、その変化に対して人は敏感に反応していることが明らかになりました。この手法によって、これまで「なんとなく」感じていた空間の雰囲気や効果を、数値というはっきりした形で示すことが可能になります。将来的には、建築デザインや展示計画の改善につなげる新たな手がかりとなることが期待されます。