この研究は、美術館などの展示空間を歩き回るとき、私たちがどのような視覚体験をしているのかを、数値で明らかにしようとする試みです。全周パノラマ画像を用いて、空間を移動しながら目に入る壁や展示作品、明暗の変化などを客観的にデータ化する手法を開発しました。 この方法を、建築家カルロ・スカルパが手がけたカステルヴェッキオ美術館と、村野藤吾が設計した谷村美術館に適用し、展示空間の構成が視覚体験にどんな違いをもたらすかを比較検証しました。結果、展示室が連続する廊下でつながれているかどうかといった構成上の違いによって、来館者が作品をどのように視認し、明るさの感じ方がどのように変わるかが分かりました。 つまり、この研究は、空間のつくり方とそこで感じる「見え方」の関係を、あいまいな感覚ではなく、数字で示すことが可能であることを証明しました。これにより、建築や展示デザインの評価や改善に、新たな指針を提供できると考えられます。