この研究は、美術館のような鑑賞空間における「見え方」を、より客観的に数値化する手法を提案しています。ポイントは、全周パノラマ画像を用いて、観察者の視点そのものを「切り取らず」そのまま分析すること。たとえば、人の目の高さ(約1.5メートル)で全周囲を撮影し、その画像を地図で用いる円筒図法を使って面積比を算出します。この方法によって、見える範囲内の「明るさ」や「展示物」などを定量的に評価できるようになるのです。 この手法は、イタリアの建築家カルロ・スカルパが設計したカステルヴェッキオ美術館を例に実験的に適用しました。その結果、館内を移動しながら見える要素がどのように変化するのかを数値で示せることが確認されました。たとえば、光の具合や展示物の配置がどのような割合で視界に入り、互いがどの程度「等価」に見えているかといった点を客観的に示すことができたのです。 この研究は「建築内の視覚体験」を、目に映るものの面積や割合といった客観的な数字で明らかにすることで、建築空間を今までとは違う視点から評価・理解する新しいアプローチを提示したものです。